角川「短歌」2020年10月号に掲載していただいた、「岡井隆略年譜」について。
発端
「現代短歌」83号(3月号)の特集「追悼 岡井隆」を読んで。
— 奥村晃作 (@okumura80kousak) 2021年1月21日
加藤治郎氏は岡井の歌集を35冊と数えている。従って最終歌集の『鉄の蜜蜂』は第三十五歌集と言うことになる(加藤氏はそこまでは書いてないが)
詩歌集の『ヘイ 龍(ドラゴン) カム・ヒアといふ声(こゑ)がするまつ暗(くら)だぜつていふ声(こゑ)が添(そ)ふ』を歌集と数えるか否かの問題だが、わたしは第三十二歌集としてカウントしたい。従って最終歌集『鉄の蜜蜂』は三十五歌集となる。
— 奥村晃作 (@okumura80kousak) 2021年1月21日
ちなみに『短歌』2020年10月号の「岡井隆略年譜」では詩歌集『ヘイ 龍(ドラゴン) カム・ヒアといふ声(こゑ)がする………』を歌集と数えながら『鉄の蜜蜂』を第三四歌集としている。どこでこうなったのか、作成の中島裕介氏にお尋ねしたい。
— 奥村晃作 (@okumura80kousak) 2021年1月21日
中島からの回答
奥村さん、お待たせしました。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月21日
帰宅して確認しましたが、岡井隆『鉄の蜜蜂』(KADOKAWA)p.216の「あとがき」に「三十四番目の歌集となります」とあります。奥村さんや加藤さんがどのように数えられたのかは存じませんが、岡井さん自身の見解を尊重し、『鉄の蜜蜂』は第34歌集にあたると存じます。 https://t.co/o7YHaAcQM0 pic.twitter.com/xbQ71uNn6N
了解しました。ありがとうございました。
— 奥村晃作 (@okumura80kousak) 2021年1月21日
つまり『ヘイ 龍……』を歌集とは見なしていないわけですね。
ところで、中島さんが第三一歌集としておられる。ここの所はどうなのですか。数えるとしたら三二のはずですが。 https://t.co/OPTmMy5P2U
おはようございます。あとで連続ツイートとしてまとめますが、序数歌集としては『天河庭園集』を入れず、『ヘイ龍』を入れる、という理解でおります(「歌集」であっても、「序数歌集」ではないものがありうる、としなければ、数がズレてしまうのです) https://t.co/x17QfnryV5
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月21日
1/8:私が角川「短歌」2020年10月号掲載の岡井隆略年譜を作成するにあたり、小池純代編「岡井隆略年譜」(「現代詩手帖」2005年11月号所収)と、江田浩司『岡井隆考』(北冬舎、2017)を参考にしました。この2つでは序数歌集の数え方が異なっています。 https://t.co/x17QfnryV5
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
2/8:ズレが生じるのは『天河庭園集』を第六歌集とする(江田)か、序数歌集から除く(小池)かという点です。大辻隆弘も「現代詩手帖」2005年同号「岡井隆全歌集解題」で『天河庭園集』を序数歌集とせず、『歳月の賜物』を第六歌集としています。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
3/8:他方、先のツイートの通り、岡井自身が『鉄の蜜蜂』を「三十四番目の歌集」と呼んでいる以上、岡井の意志を尊重する限り、35番目の序数歌集は存在しません。となると、奥村・加藤が「歌集だと考える35冊」のいずかは「序数歌集ではない」と考えるほうが妥当です。https://t.co/8HBaGHY0TU
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
4/8:『ヘイ龍カム・ヒアといふ声がする(まつ暗だぜつていふ声が添ふ)』(思潮社、2013、以下『ヘイ龍』)のP.447「この本について」には「この本は(中略)二つには、わたしの新しい歌集である」と宣言されている以上、同書は歌集と数えられるべきだと考えます。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
5/8:であるならば、「『ヘイ龍』を歌集とし、『鉄の蜜蜂』が34番目になる歌集の数え方」が、岡井の序数歌集の数え方としては正となります。その点では、小池が略年譜で示した数え方(〈小池式〉と呼んでおきます)のほうが妥当性が高い。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
6/8:もしかすると、私が参照した〈小池式〉も正確ではないのかもしれませんが、『天河庭園集』を除くほうが岡井の意志に近そうである、と私は考えます。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
なお、〈江田式〉が間違っているわけでもありません。歌集の数え方としては、35冊であっても構わないと思います。
7/8:〈江田式〉が序数歌集を正確に数えることを意図としていたとしても、『岡井隆考』(2017)の後に『鉄の蜜蜂』(2018)が刊行され、そこに岡井自身が「三十四番目」と明記したことで、遡行的に数え方が決まった可能性があります。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
8/8:なお、「現代短歌」の最新号は未入手ですが、「35の歌集があると考える」ことと「岡井隆自身が序数歌集を34と把握している」ことは矛盾しません。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
今後機会があれば岡井の序数歌集の考え方や、各歌集刊行当時の周囲の見解について調べることもあろうかと思います。現時点では以上です。
補足
ツイートし忘れていたのですが、〈小池式〉でも〈江田式〉でもなく、
『天河庭園集』を第6歌集とし、『ヘイ龍』を序数歌集としない
場合も、「『鉄の蜜蜂』を第34歌集としつつ、刊行歌集を35冊と考える」一つの道筋ではあります。ただ、この見解を打ち立てるには証拠が足りないため、〈小池式〉のほうが有力だと思います。
その後(2021年1月23日追記)
「現代短歌」2021年3月号を入手しました。同誌特集「追悼 岡井隆」中の「歌集全34冊解題」は「〈江田式〉+『ヘイ龍』を序数歌集としない」=前項「補足」で示した形になっています。
gendaitanka.thebase.in
[余談]我田引水すると
我田引水すれば、私にとって『もしニーチェが短歌を詠んだら』は、私の名前がついた刊行物では最も部数の出た本ですし、とても大切な一冊ですが、序数歌集には入れていません(『oval/untitleds』を第二歌集としています)。https://t.co/iv8h3MvZEk
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日
これは、自分自身の作風についての捉え方ももちろん関係していますが、ニーチェや、この本を企画した石川一郎さんらの顔を思い浮かべると、私の序数歌集に含めるのは畏れ多い、とも思います。
— 中島裕介 (@yukashima) 2021年1月22日