but waiting*4

塵埃と約束を振り払いつつ立つanything but waiting
僕の手を「人違いでは」と払う人の視線は螺旋状にこぼれて
散り終えた黒き花弁を踏みしめる僕は、例えば閉めかけの螺子
suica持て自動改札を進むとき触れてはならぬ心のあらめ
乾いてる春をかわして行く君はさよならのときも振り返らない
抜き切れず横から叩き倒された釘としてただ口を噤んだ
ビル影で生きている黒猫からも過去に囲まれた僕は見えない
モルヒネを打たずに心を縫うような痛みだ今日の空の高さは
屋上の錆びた手摺に縋るとき朱きペンキの欠片だけが手に
君が中空を見上げたまま語る仁愛はもう塗り潰された
草臥れたる「弁明」を手に新宿を彷徨ふ少年の声ぞ響けよ
泣き腫れた目が開かれたときにもう落ちてゆくだけの新潮文庫
抱くたび真白き肌を強張らす歌集の帯はまだ裂けて行く
風の日は枯葉が部屋に舞い降りて来るから服を着たまましよう
思いがけず優しくされて堕ちたのか机の上に残る栞は
高砂の松ばかりなる帰路として現れていた春に微睡む
マルボロに火を点けるとき指先に当たる吐息は祈りに変わる
切々と歩めり 薄く積りたる雪が連れ来る春ぞありなむ
夕焼けを見上げる君に花が、ただ一輪の花が届きますよう
デジカメのような目をした電気羊が見ている夢は優しいだろう
待ち切れず遠くの海へ行くのならせめて静かの海で溺れに
現実の描画速度が遅くても待つのだ君が見つかるまでは
情景はいつも遠くて、指先に触れる頃には錆びてるでしょう?
送電塔に凭れているから君に灯りを贈る なるべく早く
太陽にまつわる記憶を語るならまつろわぬ民として聞いてやるから
太陽が昇る頃には劇場が溶け出して爪先に染み込む
待つ人の髪を初めて撫づるとき素足に触るる骨はやはらか
こめかみに熱は宿れる 跳弾のような指を当てられるたび
真夜中に碧きベランダを洗ひて月へのプールサイドと為さむ
座る僕の腿に黄砂は降り積もるまだnothing but waiting