演技の終わり thea/tric(k)al ends*11

1.lighting rightly
 attend
制服は鞄の中に入れてある登校する我が聖別として
 ascend
教科書に当たる日差しが波を打つ感触をペン先でなぞる
 extend
ペンはただ君を求むる声のごと琥珀の中の虫を連れ出す
 portend
教室を迷う蛾がもし蝶ならば戯曲はきっと廊下を抜ける
 intend
虫めづる姫君の実存を説く教師がボクにチョークを放つ
 offend
生え際に白き跡ある我を笑いぬ 花瓶の百合がここまで匂う
 amend
覚束ぬ東訛りの我を我は棘として見よ束手して見よ
 unbend
アクセント辞典についた引き癖を愛する君が指紋を解く


2.sounding soundly
 thereat
杳窕の明日 発声練習に「春と修羅」をと君は推したね
 cheat
公園の木陰を今日の袖幕とする かくれんぼする子らも指差す
 sweat
心臓が僕らを揺らし汗に噎せ返るまでを部活動という
 beat
音楽を選び好みを共にしつつ我らの通奏低音を探る
 treat
科白とはtrick and treat!だから僕らにせめてランタンを下さい
 repeat
暗がりのきみがお菓子をねだるから拗長音の唇を思う
 eat
板チョコのかけらを分けて月光はほのか爪先を染める


3.acting accidentally
 
光が闇を在らしめるからドーランの色の深さを互いに笑う
 
真白の光を作るため青きセロファンを挿す この視界にも
 
俳優は人に非ざりて優れたる者曰く人を憂ひたる者
 
劇場という名のハコに俳優は全てを満たす闇としてある
 
存在を思ふことこそ箱に意味を満たすならば君をも
 
自らを骰子として一擲す 目をイカサマなくらいに開けて
 
奈落より舞台へ這い出でて泳ぐ掌そして溶暗
 
演劇は人生のリハ、人生は演劇のリハ ならば全ては


π.theartrical end
 theatrical end
地下鉄の窓外は浅き闇 今も端役の我はただ立つ
 endure
手垢も付いているだろう吊革を求めて狭間を泳ぐ掌
 theatri/calender
本番への日々にはあらず共に在りて一つを為しし日々を数へる
 rend
アクセント辞典の埃を拭つても拭つてももう存在に為らじ
 endear
もう何も語り合ふべきことを持たぬト書きのままの姿を恋ふる
 end to end
あの夏を乱反射する銀紙の上からチョコを一口だけ割る
 never end
意味に満ちたいつかのチョコの空箱を胸のポケットに蔵う 明日も